専門誌 月間カフェ&レストランにて オーナーマレが2年間連載(2008年8月終了)

カウンター椅子
心の交差店
2007年11月号の表紙

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大切すぎて入れないカフェ(2007年11月号掲載)


10月22日で、キックバックカフェ(以下KBC)は仙川にオープンして三周年を迎える。長いようで本当にあっという間の三年だった。
「石の上にも三年」と言われるが、どんなことでも、情熱を傾けて三年間はやり続けなければ、何事もなし得ないと思う。
何かを学ぶのにも三年は必要だ。

うまくいこうがいくまいが、文句を言わずに三年間やり続けたときに、初めて見えることがある。
その意味で、僕たちはようやく立ち止まって、この三年間で何を学習し、何を成し遂げることができたのかを振り返ることもできる時に来たのかもしれない。

オープン以来、一貫して願って来ことは、KBCの存在が人々の役に立つことだ。
ただ、暇つぶしにフラッと来る人たちも大歓迎だし、他に行くところがなかったから、仕方なくKBCに入って来た、という人だって大歓迎だ。
しかし、それ以上に、僕たちが切に願い続けていたことは、
「KBCがなければならなかった」
と思ってもらえるような方法で、具体的に、そして積極的な意味において、
人々の生活に関わり、なんらかの貢献をすることだ。

そうでなければ、ただスタッフが食べるためだけに、ビジネスとしてのカフェを、回しているだけになってしまう。
僕たちが最も願っていないことこそ、そんな「回しているだけのカフェ」になりさがってしまうことだ。そこには何のビジョンもない。

しかしつい最近、僕たちの願っていたことが、実現していることを教えてくれた出来事があった。
それは、まるでドラマのワンシーンのようで出来過ぎているとうに思える。
でも僕は思う。きっとこれは、三年目の終わりを締めくくり、四年目に入る前に、三年間忠実にやり続けて来たスタッフに対して与えられた天からの報いなのだろうと。

暑かった夏の日差しが、ようやく峠を越し始めた秋口。
日が傾き始める頃にもなると、清々しさが香るようになってきた、そんな時刻だった。

西日に照らされた店頭の看板に、一人の女性が立ち止まった。

「新しく秋メニューが始まりましたから、よかったらお試しくださいね」

店頭に立って、道行く人々に声をかけていた男性スタッフはそう言って話しかけた。
ディスプレイされたメニューを見ながら、入ろうかどうか躊躇している人には、必要以上にプッシュはせず、このように一言だけ言ってにっこり微笑みかける。
すると大抵、そこで店に入るか、「また来ます」というかのどちらかに分かれる。

入り口に向かって一歩踏み出す人には、笑顔でエスコートして店内へご案内を差し上げる。ところが、この時の彼女の反応はそのどちらでもなかった。
彼女は、そこに立ちつくし、まるで何かを思い出すかのような懐かしさを込めて、店の方を見つめ続けている。

そして、小さいけれども、噛み締めるようにはっきりとした口調でこう言った。

「ありがとうございます。
今の私がこうして前を向いていられるのも、この店があったからなんです・・・」



予想もしていなかった言葉に、彼は驚きを隠せなかった。
彼女の過去に一体何があったのだろう。それを知る由もない。
立ち入前ったことをいきなり聞くのも失礼だ。
けれども、彼女はこんなことを話してくれた。

「3年前の冬に、駅前で『細身のメガネのお兄さん』にチラシをもらって、初めて来たんです」

3年と言えば、オープンしてまだ間もない頃だ。
その夜に行われていたのはジャズのセッションライブ。

「そのステージと、そこで働くスタッフを見て、
私も頑張れるんだって思ったんです・・・
それから面接を受けて、今はライブをやっている渋谷の店のホールスタッフとして働いてるんですよ・・・
だからここは自分にとってあまりに大切な場所すぎて、なかなか簡単に入れないんです」

それを聞いた彼には、すぐにかける言葉が見つからなかった。
入ってほしいけれども、そういうことであれば、無理におすすめするわけにはいかない・・・そこまで大切に思ってくれているなんて・・・。

彼は失礼にならないように慎重に言葉を選びながらこう応答した。
「そうおっしゃっていただけると、僕たちもうれしいですよ。
こちらこそありがとうございます」

そして続けた。
「僕自身も、実はKBCと出会ったことで、前向きに変えられた一人なんです。
だから、そういうお客様が来ることを僕たちは願っているんですよ」

それを聞くと、彼女は改めて店の方に向き直り、それから彼を見て、深々と頭を下げてこう言った。

「本当にありがとうございます」

結局彼女は店には入らなかった。
去来する思いに打ちのめされ、言葉も見つからず、立ち去る彼女の後ろ姿を見送りながら、彼もただただ深く頭を下げた。

「ありがとうございましたっ!」

昼の日の暑さを癒すそよ風のように吹き抜けた彼女。
彼女去った後、彼の心も爽やかに晴れ渡り、すっかり癒されていた。

「仕事をしていてよかった!」
彼の心にはそんな喜びだけが残った。

時の流れの中で、人は変わり風景も変わる。
他ならぬ彼女自身も変わった。そして、新たなる領域で仕事に力をいれている。
その彼女の変化にKBCは深く関わっている。
今の彼女の人生に、欠くことのできない再スタートの起点として。

そしてこの日、彼女は店の前に立ち、
3年前と変わらないKBCの姿をそこに見ていた。
変わるべきものと、変わらないべきものがあるとしたら。
それが何であるのかを、彼女は教えてくれた。

「大切すぎて簡単には入れない」か・・・。

入店しなくとも、そのような視線でKBCを見つめてくれている人もいる・・
そんなことは、彼女の言葉がなければ夢にも想像できなかっただろう。

来店し、戻って来てくれる人たちだけが、KBCを愛してくれているのではないんだ。
今日も渋谷がんばる名も知れぬ一人の女性の支えになっているんだ・・・。

それを知ったとき、しみじみとした感動が体の隅々に染み通っていくのを感じた 。

三年間の労苦が報われたと感じるのに、
充分な感動を彼女は僕たちに届けてくれた。


(2007年11月号掲載)

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■バックナンバー

2008年----------

8月号 町づくりカフェ
7月号 好意がカギだ
6月号 奇跡カフェ
5月号 私の学校KBC
4月号 医療関係者の癒しカフェ
3月号 安全カフェ
2月号 キッズバックカフェ
1月号 バラエティカフェ



2007年----------

12月号 奮い立つカフェ
11月号 大切すぎて入れないカフェ
10月号 おかえりカフェ
9月号 天国の前庭
8月号 ヘルシーカフェ
7月号 再生カフェ
6月号

思い出かふぇ

5月号 かけこみカフェ
4月号 マイホームカフェ
3月号 ノンアルコールカフェ
2月号 元気がでるカフェ
1月号 ゴスペルカフェ

2006年----------

12月号 人儲けカフェ
11月号 キックバックはめぐみカフェ
10月号 キックバックは変身カフェ
9月号 キックバックは出会いカフェ
8月号 クリエーターズカフェ
7月号 ママも子どももキックバック
6月号 キックバックは
閉店後も大歓迎
(連載スタート)



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