専門誌 月間カフェ&レストランにて オーナーマレが2年間連載(2008年8月終了)

カウンター椅子
心の交差店
2007年5月号の表紙

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かけこみカフェ (2007年5月号掲載)


つい先日の閉店後、もう23時半を過ぎたころ、キックバックに一人の男性から電話が入った。

「遅くにすみません。マレさんはいますか?」
電話に出たスタッフは答えた。
「あいにく、もう帰宅してしまったんですが・・」
「そうですか・・実は、カウンセリングを受けている○○と申しますが・・」
「ああ、クライアントの方ですね。では担当に変わりますね。まだ担当の者がいますから」

そう言ってスタッフは、僕の秘書に電話を回した。彼女はカウンセリングの予約を電話やメールで受ける係なので、クライアントの方々とも顔見知りだからだ。

僕は夫婦のカウンセリングをしている。
カウンセリング会場はキックバックカフェ(以下KBC)だ。お茶でも飲みながら友人と話しをしている感覚で、気軽に相談に来れる場所。それがKBCだ。

この夜、突然電話をしてきた彼。 妻の勧めでカウンセリングに来るようになった。
夫婦のすれ違いがひどく、妻が僕の本を読んだことがきっかけで、まず彼女が一人で相談にやってきた。
それから夫を連れて来た。そしてそれ以来、二人は定期的にくるようになったのだ。

この夜、彼は妻と激しい口論になってしまったらしい。カウンセリングを通して、お互いのコミュニケーションスキルを学びつつあったから、以前に比べてずいぶん二人の関係はよくなっていた。それでも、その日はちょっとしたことが原因で、いつにない激しい口論になり、収拾がつかなくなってしまったということだった。 たまりかねた彼が電話をとり、キックバックに電話をしてきたというわけだ。

「どうしていいかわからなくて電話してしまいました。こんなことは今まで初めてで・・・」
妻は、精神的に追いつめられ、感情を抑えられない状態に陥っていた。床に座り込んで「実家に帰りたい!」と泣き続けるしかなかった。

しかし夫がどこかに電話をしていることに気づき「いったい、こんな時間にどこにかけているのか?」と思い耳を澄ましていると「マレさんいますか?」という声が聞こえて来た。

「ああ、キックバックにかけたんだ」
この時、彼女は驚くほどすーっと心の中が軽くなったのだそうだ。
「ああ、喧嘩をしても、戻る場所が一緒なんだ」
そう思ったら、嘘のように気持ちが楽になったと。

この夜、KBCは、彼にとっての、駆け込み寺ならぬ、駆け込みカフェとなった。
そして、ここに駆け込んだことは正解だった。それが妻の心の動揺を沈めるきっかけとなったのだから。
この報告をうけたとき、僕は本当に嬉しくなった。
僕は不在だったし、この夜の二人の緊急事態を収集するために、何か特別なことをしたわけではない。しかしこの夫婦にとって「なにかあったらKBC」ということになっているのだなぁと思ったからだ。

どうにもならない緊急事態のとき、誰かに助けを求めたいとき、すぐに電話をかけられる場所、駆け込める場所があるというのは、とても大切なことだ。
KBCはそういう場所でありたいと願っている。



実際に、近所の中学校に通う少女が駆け込んで来たこともある。

彼女は以前、駅前でチラシを受け取り、KBCの音楽イベントに来たことがあった。たまたその子にチラシを渡したのが僕の妻で、駅前で個人的に話したらしい。そんなこともあって、僕も妻も彼女のことをよく覚えていた。

その彼女が、ある夜、僕たちが出演しているライブの最中に、ずいぶん遅い時間になってからたった一人で来店したのだ。彼女が来店したとき、僕も妻もステージ上で演奏中だった。一人で来て大丈夫なのかな・・・そう思いつつも演奏を続けていた。

演奏が終わり訪れた人たちと立ち話をしていると、「マレさん、彼女が家出をしてきたそうです」と伝える声があった。さっそく彼女と話しをした。

「家出してきたんだって?」

「はい・・。」

「何があったの?」

「家でお父さんぶたれて」

DV(ドメスティック・ヴァイロレンス)か・・。
彼女は一見、取り乱している様子もなく、その表情から本当のことを言っているかも分からなかった。しかし仕事がら、今までたくさんDVの問題を扱って来たから、その深刻な実態を知っている者としては、彼女の話しを軽く受け流すことはできないと思った。

「どうしてここに来たの?」そう聞くと彼女はこう答えた。

「家を飛び出しちゃって、夜だし、どうしていいか分からなくなって、この間、ここに来て、みなさんに仲良くしてもらって、そうだ、ここにくれば誰かが話しを聞いてくれると思って・・・」

彼女はそう言った。問題がなんであれ、そう思ってくれた少女がいる。なんと嬉しいことだろうか。

「そうか、それはよかった。ここなら安全だよ。でも今日は、家に帰らないつもりでいるの?どこに行くつもり?」

そう聞くと彼女はこう答えた。

「知り合った高校生のお兄さんがいて、その人の家に泊まりにいく」

それを聞いて僕はなんとか、彼女を引き止めるしかないと思い、KBCの女性スタッフの家に泊まるように説得した。

DV被害者の訴えには、周りが積極的に関わろうとしなければ、また同じ被害が続く。それが未成年の場合、本当に深刻な状態なら行政に介入してもらう必要がある。

DVだと本人が訴える以上、慎重にならざるを得ない。一刻も早く自宅に電話して親に迎えに来てもらうべきだが、彼女から自宅の番号を聞き出す必要があるし、何よりも彼女がそれに同意しなければ先に進めない。

しばらく話した後、彼女はよやくこちらの提案に同意した。もう終電もない時間になっていたが、自宅に電話を入れ母親に事情を説明した。その日にお父さんとの間で起こったことは本当だった。
翌日、母親に迎えに来てもらい、二人は対面した。父親も子供に悪かったと思っていて、早く帰って来てほしいと言っているということだ。

とりあえずその日の出来事は一件落着した。彼女は近所の学校まで通って来ているので、何か問題があったらすぐにまた駆け込んで来ることができる。この事実が家庭でのDVの抑止力になっていると信じる。


KBCは駆け込みカフェだ。
調布市が定める「子供の家」(子供が駆け込める場所)にも指定されている。戦場において、赤十字マークは安心のしるしだ。
そのように、人々にとってKBCが安全の代名詞になることを心から願っている。


(2007年5月号掲載)

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■バックナンバー

2008年----------

8月号 町づくりカフェ
7月号 好意がカギだ
6月号 奇跡カフェ
5月号 私の学校KBC
4月号 医療関係者の癒しカフェ
3月号 安全カフェ
2月号 キッズバックカフェ
1月号 バラエティカフェ



2007年----------

12月号 奮い立つカフェ
11月号 大切すぎて入れないカフェ
10月号 おかえりカフェ
9月号 天国の前庭
8月号 ヘルシーカフェ
7月号 再生カフェ
6月号

思い出かふぇ

5月号 かけこみカフェ
4月号 マイホームカフェ
3月号 ノンアルコールカフェ
2月号 元気がでるカフェ
1月号 ゴスペルカフェ

2006年----------

12月号 人儲けカフェ
11月号 キックバックはめぐみカフェ
10月号 キックバックは変身カフェ
9月号 キックバックは出会いカフェ
8月号 クリエーターズカフェ
7月号 ママも子どももキックバック
6月号 キックバックは
閉店後も大歓迎
(連載スタート)



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