専門誌 月間カフェ&レストランにて オーナーマレが2年間連載(2008年8月終了)

カウンター椅子
心の交差店
2007年3月号の表紙

旭屋出版web site


ノンアルコールカフェ (2007年3月号掲載)


カフェと呼ばれる空間は、近年驚くほどの勢いで生み出されている。
いろいろな好みの人たちのために、それぞれが工夫をこらして、いろいろな種類のカフェをクリエイトしている。

キックバックカフェ(以下KBC)は、ノンアルコール・カフェだ。
開店当初、多くの人がそれを理由に店を出て行った。酒をおけ!と怒る人もいた。もちろん今でもそのような反応はなくならない。しかし今では、だからこそ来店してくれる人たちが増えてきた。

我々は別に反アルコール運動を展開しているわけでもない。ただ、ここでなければならない、そんな空間になることを願っている。

それは、以前にも書いたが、僕がカウンセリングという仕事をしているということと深く関係している。クライアントの中にはアルコールが原因で、家庭崩壊や、ときには死を招いてしまったという人々さえいる。彼らが、重荷をおろしに来るための空間がKBCでなければならない。
アルコール依存症の人々にとって、「ほんの一口」が命取りになる。だからKBCのメニューにはアルコールがないのだ。
 
KBCには深夜の常連客がいる。通常営業中一度も、来店したことのない、自称エンジェルさんという。
KBCは閉店後も大歓迎ということは以前この場で書かせてもらったが、(2006年6月号参照)、彼はノン・アルコールカフェのKBCに初めて訪れた酔っぱらいのお客さんだった。
彼がやってくるのは、もっばら「できあがった」後で、それは必然的に閉店後の作業時間帯だった。
忘れた頃にフラッと現れては、「本当にお酒ないのかぁ??」と言っては、水を飲んで帰っていく。そんな彼と話をさせてもらうのは、マネージャーを中心とした男性スタッフや体育会系で、のりにも強いスタッフたちだった。

あるときは、「よしお前ら、気に入った、もっと話そう!隣のファミレスで待ってるからな!」と笑顔で立ち去る彼に「もう少し付き合おうか・・・」と一緒に食事をしたこともある。
彼は上機嫌にビールを飲み、スタッフはアイスティーを注文するのだが、彼らは嫌な顔をすることなく、親戚の面白いおじさんが遊びに来てくれたかのように迎え、深夜のエンジェルさんとの時間を楽しんだ。

その後しばらく、彼が姿を見せなくなったので、「最近どうしたんだろう」などと話し合っていた矢先のつい先日のことだ。

「元気!?」

彼は、いつもの時間にいつもの様子でやってきた。

「なにか飲めるかな?」

「あったかい紅茶でいいですか?」

コーヒーマシンはもう閉じているから、簡単にいれられるものはそれしかない。
「エンジェルさんいつもより、疲れ気味だね」そっとスタッフに耳打ちするマネージャー。この日、隣のファミレスでしばらく語り合ったスタッフKは、半ば酩酊状態の彼のリクエストで自宅まで一緒に付き合った。
 
そんなある日、その日はオフだったスタッフKが、ふとショップに立ち寄ると、なんと閉店後にしか現れなかったエンジェルさんが、真っ昼間の明るいときにマネージャーと話している姿が目に飛び込んでくるではないか。
驚いたKに、彼をよく知る他のスタッフ言う。

「エンジェルさん、お酒やめたってよ」

「え、そうなんだ!それはよかったね」

その日、店内は比較的すいていたので、スタッフRは彼とテーブルを共にさせてもらうことにした。いつものように彼の話に耳を傾けるために。
とりとめもない話をし始めたかと思うと、エンジェルさんは唐突に自らアルコールコール依存症であることを告白した。

「僕は、これを克服したいんだ」

そう強く言う彼はこの日はしらふだった。

「飲みだすととまらないんだよ。先週も、実は一週間ほど飲みっぱなしで、家にも帰っていなかったんだ。そのうち幻聴がきこえてきてね・・・不安になって、それでも飲み続けていたんだから・・。こんな状態も、今日で終わりにしようと思って、いい加減嫌気がさしてね・・。今日こそは家に帰ろう!って決めた夜にここに立ち寄ったんだ。でも、自分ひとりで家に帰る勇気がなかったんだよ。スタッフのKさんが付き合ってくれてほんとに助かった!」

そういうことだったのか・・。彼の話は続く。

「このままだと俺は酒に殺されてしまうんじゃないか・・・そう思ってね、厚生プログラムを受けることに決めたんだよ」

彼は、自らアルコール依存から立ち直ることを決断し、その日、昼間に来店したというわだ。
「今日、いつもの行き着けの喫茶店が閉まっていて、その瞬間キックバックカフェに行こうって、初めて素直に思えたよ。正直いままで、ここにしらふではいるのが、なんだかこわかったんだよね・・・でも今はすごく落ち着いていて、長くこの土地で生きてきた自分の人生にこの場所がすごくフィットする、自然にそんなイメージをもてるんだ」



新しい門出を祝い、スタッツRはホワイトニング・ブレンドティーをご馳走した。
彼は数時間、Rとの会話を楽しんで店を後にした。
その帰り道、彼はKBCに電話をしてきた。

「支離滅裂な話を聞いてくれてありがとう。Rさんが『酒を呑んでいてもシラフでも、いつでも来てくださいよ』って言ってくれたその言葉に、救われた気持ちになったよ」と話してくれた。

「ところでキックバックって経済用語ではいい意味じゃないけど、ここはどういう意味なの?」
Rは答えた。「英語の俗語でリラックスしようぜ!という意味で、古くからの友達を家に招き、靴下脱いでリラックスしろよ!ってな感じですよ」
すると彼は言った。
「ああ!それじゃ俺は本当にキックバックしたんだよ!」
そして何度も何度も「ありがとう!」と言ってくれた。

この日以来、しらふのエンジェルさんは通常営業時の常連さんに変わった。
彼は来店すると「あのお茶をください」と言って、必ずホワイトニング・ブレンドティーを注文する。
「俺、タバコ吸うんだけど、分煙のスタイルっていいね!」

楽しそうにスタッフと話す彼を見ると、キックバックは彼のためにあると思う。
アルコールが命取りになる彼にとって、ここは回復とキックバックの場所なのだ。

ノンアルコールであることの意味を、スタッフ自らが再確認させられたエンジェルさんとの出合いに、我々は感謝しきれない。


(2007年3月号掲載)

このページのトップに戻る


■バックナンバー

2008年----------

8月号 町づくりカフェ
7月号 好意がカギだ
6月号 奇跡カフェ
5月号 私の学校KBC
4月号 医療関係者の癒しカフェ
3月号 安全カフェ
2月号 キッズバックカフェ
1月号 バラエティカフェ



2007年----------

12月号 奮い立つカフェ
11月号 大切すぎて入れないカフェ
10月号 おかえりカフェ
9月号 天国の前庭
8月号 ヘルシーカフェ
7月号 再生カフェ
6月号

思い出かふぇ

5月号 かけこみカフェ
4月号 マイホームカフェ
3月号 ノンアルコールカフェ
2月号 元気がでるカフェ
1月号 ゴスペルカフェ

2006年----------

12月号 人儲けカフェ
11月号 キックバックはめぐみカフェ
10月号 キックバックは変身カフェ
9月号 キックバックは出会いカフェ
8月号 クリエーターズカフェ
7月号 ママも子どももキックバック
6月号 キックバックは
閉店後も大歓迎
(連載スタート)



「心の交差店」TOPへ戻る

ホームに戻る