専門誌 月間カフェ&レストランにて オーナーマレが2年間連載(2008年8月終了)

カウンター椅子
心の交差店
2007年1月号の表紙

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ゴスペルカフェ (2007年1月号掲載)


11月の半ばから妻を伴い、約4週間ロスで過ごした。
レコーディングが目的でもあったのだが、お世話になっている人々の挨拶回りや、人間関係のメンテナンスなどもある。
前号でも書いたとおり、人儲けこそ、何にも代え難い財産だ。

僕たちには、たくさんのアメリカ人の友人がいる。日本人よりも多いのではないかと思うこともある。
友人にもいろいろあるが、暇つぶしに出歩くだけの友人や、飲み友達、あるいは、年賀状だけの友人というのもあるだろう。
僕がここで言う友人というのは、ビジョンや目的を理解し協力してくれる人たちのことだ。いちいち、人生のなんたるかを一から説明しなくても、ある程度までお互いの立ち場や役割のようなものを自動的に理解しあえる、そういうタイプの人たちをさしている。

KBCの創世期を支えてくれたのは、まさにそのような友人たちだ。そしてその多くはアメリカ人だった。だからと言って、僕たちがアメリカかぶれしているというわけではない。けれども、カフェとかクラブとかの性質上、もともとが日本発の文化ではないだけに、その情報量や多様性は常にアメリカやヨーロッパが先をいっている。そんなこともあり、僕たちのビジョンについて理解してくれる人たちが、日本よりもアメリカに多いというのは必然かもしれない。

しかしなんと言っても、KBCがゴスペルカフェであるということが、その根幹にある。
僕たちはKBCを「複合的価値創造空間」と呼んでいることは以前にも述べたが、そこには芸術や文化面において、地域社会に貢献することを願っているという意味が込められている。なかでも我々が一番重きを置いているのが「本物のゴスペルを提供する」ということだ。
KBCは、日本で唯一のゴスペルに特化したカフェなのだ。

もともと僕は、ゴスペルをやるミュージシャンだし、ただまねごとをするだけでなく、牧師という立ち場もある。だからただ商売のためにゴスペルを利用しているというのとは違うと自負している。

ゴスペルと言えば、アメリカの黒人教会から世界に弾けた音楽であることは誰もが知るところだろう。映画「天使にラブソングを」や、ミュージカル「MAMA I want to sing」などが、日本でのゴスペルの火付け役だろう。

そんな背景もあって、KBCが、ショービジネスに捕われずにゴスペルの持つ魅力を提供していきたいという願いに賛同してくれる本場アメリカのゴスペルアーティストたちが、少しずつ集められてきた。




僕たちがロスに行くと必ずステイするのは、ゴスペル界のドンであるアンドレー・クラウチの自宅だ。
彼のことを知らない黒人ミュージシャンは、ほぼアメリカには存在しないと言っても過言ではない。
生きながらにして伝説化し、ハリウッドのウオーク・オブ・フェイムに手形が刻まれているのは、アンドレクラウチだけで、彼はグラミー賞を9回受賞している。
彼がKBCに来てくれたときは、大して宣伝もしていないのに、ものすごい人の行列ができて、入りきらなかった。

つい先日は、有名な俳優のモーガン・フリーマンの息子がライブをしにやってきた。大手宅急便会社のEコレクトというサービスのテレビCMでピアノを弾きながら歌っていた黒人と言ったほうが日本人にはわかりやすいかもしれない。

夏にはロスで活躍しているラップデュオのクライストサイドソルジャがきたし、そのつながりでシーラ・Eがきてくれた。
彼女は東京某所の有名クラブでのライブのために来日したのだが、友人であるラッパーがKBCに出演するにあたり、遊びに来てくれたのだ。
僕たち夫婦は、シーラのライブに招待してもらったのだが、そのステージの真っ最中に、「このクラブもいいけど、みんなキックバックカフェに行きなさい!」って言ったもんだから、こっちとしてもびっくりだ。
すっかり気に入ってくれて、まるでながい付き合いの友人のように、親しくさせてもらっている。 

KBCで生まれるつながりは、少なくともミュージシャンに関するかぎり「ゴ スペル」というキーワードで織りなされるものであると言っても過言ではない。
 
ゴスペルの源流は、アフリカから奴隷としてアメリカに売られてきた黒人たちが、絶望のどん底のなかで歌い始めたニグロスピリチュアルだ。
彼らは、日々の苦しみに耐えながら、いつ終わるともしれない奴隷生活のなかで希望を歌った。それはバイブルに約束された神の国の希望を彼らが信じたからだった。
そんな希望の歌が、黒人の教会で独特のグルーブと融合してゴスペルと呼ばれるジャンルとなり、世界に知られるようになった。つまりは、もともと商売とは関係のない魂の叫びだったわけだ。

それにもかかわらず、昨今、日本のゴスペルブームに乗じて、多くのプロモーターが商売としてのゴスペルを展開している。そんな風潮を憂慮する本場のゴスペルミュージシャンは少なくない。
KBCでは、毎月入場無料でゴスペルフェスタというイベントを開催している。それはショービジネスに翻弄されない本来のゴスペルの魅力を提供したいという一心からきている。
そんな思いとビジョンに賛同してくれるアーティストたちの輪が、少しずつKBCに結びつけられている。
それが僕たちの想像を超えた大物に結びついたりする。
 
KBCは東京のど真ん中にあるわけじゃない。仙川という小さな街に存在する小さなカフェだ。しかし、そんな場所に世界でも名の知れた有名アーティストがやってくることに、多くの人々が驚きの声をあげる。実際我々も驚いている。
しかし、ここにゴスペルの力があるのだろう。
ゴスペルとは、グッドニュースを意味することばだ。それは神が人を見捨てないとう「よい知らせ」であり、そこにある希望だ。
ずいぶん前に、「八甲田山」という映画があった。「天は我々を見放した」という台詞が宣伝でながれ、実際に映画をみた僕は少年だったが、心が重くなったのを覚えている。
しかし、ゴスペルは絶望のなかでも「天が我々を見放さない」ということを信じたものたちの魂の叫びだ。

ゴスペルという結びの帯が、ワールドワイドに小さなカフェに人を運んでくれる。
これを見るとき、僕たちは天が我々を見放していないという希望に燃えるのだ。


(2007年1月号掲載)

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■バックナンバー

2008年----------

8月号 町づくりカフェ
7月号 好意がカギだ
6月号 奇跡カフェ
5月号 私の学校KBC
4月号 医療関係者の癒しカフェ
3月号 安全カフェ
2月号 キッズバックカフェ
1月号 バラエティカフェ



2007年----------

12月号 奮い立つカフェ
11月号 大切すぎて入れないカフェ
10月号 おかえりカフェ
9月号 天国の前庭
8月号 ヘルシーカフェ
7月号 再生カフェ
6月号

思い出かふぇ

5月号 かけこみカフェ
4月号 マイホームカフェ
3月号 ノンアルコールカフェ
2月号 元気がでるカフェ
1月号 ゴスペルカフェ

2006年----------

12月号 人儲けカフェ
11月号 キックバックはめぐみカフェ
10月号 キックバックは変身カフェ
9月号 キックバックは出会いカフェ
8月号 クリエーターズカフェ
7月号 ママも子どももキックバック
6月号 キックバックは
閉店後も大歓迎
(連載スタート)



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