専門誌 月間カフェ&レストランにて オーナーマレが2年間連載(2008年8月終了)

カウンター椅子
心の交差店

2006年12月号の表紙

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儲けカフェ (2006年12月号掲載)


この11月から、メニューを一新した。
季節ごとに、限定メニューを用意するのが常だが、今回は、久しぶりの通常メニューの刷新だった。
それに先駆けて、9月半ばに、新メニューの試食会をやった。
メニューのほとんどは、妻が思案し、スタッフに作らせ、何度も試食をして、採用するかどうかを決めていく。もちろん、スタッフにも新作メニューをどんどん提案してもらう。
この試食会は、そんな試行錯誤の結果の作品発表の場だ。通常営業はせず、申込者に限って入店してもらい、新しいメニューを食べてもらう。
もちろん、そこで最終的に却下されていくものもある。

その日、そこには、この日のために有給をとって駆けつけてくれた某有名ホテルの総料理長がいた。彼はKBCのフードアドバイザーだ。
KBCがオープした2年前、やはり彼はそこにいたて、オープンから数日間、有給をとって厨房で陣頭指揮をとってくれた。KBCの厨房の設計も、すべて彼が手がけてくれた。プロとして、KBCのキッチンで何が可能で、何が難しいかを一番知っているのは彼でもある。
オープン当初のメニュー構成も、彼によるところが大きい。
彼が考案してくれた料理もたくさんある。
そして今回のメニュー改正にあたっても、僕たちはまず彼に連絡を入れた。
「いつ来てもらえますか?メニューを新しくしたいんですけど」
「じゃあ、スケジュールを調整してから連絡しますよ」
すると、彼はローテーションの合間をぬって、彼はわざわざ休みをとって、朝からKBCに来てくれる。

妻は彼に、「こういう感じの料理を出していきたいと思っているんですよ」とアイデアをぶつける。それに対して、彼は熟練したプロとして、いろいろな意見を言ってくれる。そして自ら、たくさんの資料とともに、新作メニューを持ってきてくれるのだ。
何度もテイスティングを試みて、その、最後の締めくくりとして、試食会がある。
朝から厨房で仕込み、スタッフに指示を出し、調理し、盛りつけを考え、妻との間でコンセンサスをとっていく。
こんなに腕のいい、大ホテルの総料理長が手弁当で、ここまで協力してくれるという現実がなければ、KBCが隣にあるファミレスと対抗することはできなかっただろう。
 
実は、彼は僕のカウンセリングのクライアントだ。彼が妻と離婚の危機にあったとき、彼の上司の勧めで僕のところにやってきたのだ。僕よりもいくつも年上の人生の先輩だが、こういう問題になると年齢差は関係ない。
彼の妻が離婚を切り出したのだったが、カウンセリングを通して、彼女は離婚を取り下げた。小さい子どもたちのためには、離婚をしない方がいいということに落ち着いたのだ。
けれども、彼女がしばらくの別居を希望していたので、彼はKBCのスタッフが住む寮で、独身男たちと、生活をともにした時期もあった。
だから、僕は彼にとっては、恩人ということになるのだろうか・・・そんなこともあって、彼は僕が電話をすると快く動いてくれる。僕は、彼の人生の最悪な時期に彼を助けることが出来た。そして今、彼は僕たちを助けてくれている。


そんな彼が、朝から試食会の準備をすすめているとき、妻の久美子が突然アメリカに電話をした。彼が考案してくれたチリビーンズの味に、もう一つ日本人には出せないパンチをきかせたいと思ったからだ。
電話の相手は、ゴスペルミュージック界のドンで、9回もグラミー賞を受賞しているアンドレー・クラウチだった。
生きながらにして、ハリウッドのウオーク・オブ・フェイムに名前と手形が刻まれているゴスペルシンガーは、アンドレー・クラウチただ一人だ。
マイケル・ジャクソンや、マドンナのアルバムでもボーカルアレンジを担当している彼の影響力は、アメリカ国内のみならず、世界的に絶大なものだ。

久美子は彼に電話をして、チリビーンズの作り方を聞いたのだ。
彼とは非常に親しくさせてもらっている。友人のプロデューサーを介して、来日した際にKBCに来てくれたことがきっかけで、非常に近い関係になったのだ。彼はKBCをすごく気に入ってくれた。
僕たちが音楽制作のために、渡米する際には、彼の家にステイする。
そんなことから、彼が天才的な音楽のセンスと同様に、料理に関しても、驚くほどの創造性を発揮して、毎日興味深い料理を作っているのを、僕たちは真近に見てきた。そんな彼の作るチリビーンズは絶品だ。
それを知っていた久美子が、彼に電話をしたのだ。
「ねえ、アンドレ、あなたの作ってくれたチリビーンズ、すごく美味しかったんだけど、あれはどうやってつくったの?」
彼は嬉しそうに、その作り方を教えてくれた。おかげで、何が不足していたのかを知ることができた。

有名ホテルの総料理長の味に、パンチをつけるために、グラミー賞9回受賞者に電話をする・・・それを見ていたスタッフが、「こんなこと、普通あり得ないよな?」と笑顔でつぶやいた。
確かに、よく考えればあり得ないと思う。
小さなカフェのために、わざわざ大手ホテルの総料理長が休みをとって、手弁当で駆けつけてくれ、しかも朝から、まるでスタッフの一人のように、せっせと働く姿はあり得ないと思う。
また、味の確認のために超有名ゴスペルシンガーに電話をするというのも、確かにちょっと考えられない光景だと思う。
けれども、そういうあり得なさそうなことが、KBCを支えている。
妻は、こういうことを「人儲け」だと言ったが、本当にその通りだと思う。
妻の父は経営者だったのだが、よく人儲けの大事さを教えていた。
それを思い出したのだろう。

つい最近も、KBCに出演してくれたアメリカ人ミュージシャンと非常に親しくなった。今、僕たち夫婦はアメリカにいるが、どんな新しい出会いがあるか楽しみだ。
人儲けとは本当によく言ったものだ。でも、人が集る場所でなければ、それはおこらない。KBCが、人儲けの場所であることを僕は嬉しく思う。
人儲けこそ、売り上げや事業の成功以上に大切な財産だからだ。



(2006年12月号掲載)

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■バックナンバー

2008年----------

8月号 町づくりカフェ
7月号 好意がカギだ
6月号 奇跡カフェ
5月号 私の学校KBC
4月号 医療関係者の癒しカフェ
3月号 安全カフェ
2月号 キッズバックカフェ
1月号 バラエティカフェ



2007年----------

12月号 奮い立つカフェ
11月号 大切すぎて入れないカフェ
10月号 おかえりカフェ
9月号 天国の前庭
8月号 ヘルシーカフェ
7月号 再生カフェ
6月号

思い出かふぇ

5月号 かけこみカフェ
4月号 マイホームカフェ
3月号 ノンアルコールカフェ
2月号 元気がでるカフェ
1月号 ゴスペルカフェ

2006年----------

12月号 人儲けカフェ
11月号 キックバックはめぐみカフェ
10月号 キックバックは変身カフェ
9月号 キックバックは出会いカフェ
8月号 クリエーターズカフェ
7月号 ママも子どももキックバック
6月号 キックバックは
閉店後も大歓迎
(連載スタート)



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