専門誌 月間カフェ&レストランにて オーナーマレが2年間連載(2008年8月終了)

カウンター椅子
心の交差店

2006年10月号の表紙

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キックバックは変身カフェ (2006年10月号掲載)


巷ではコスプレがブームになってもう長い。
最近はそれが外国にまで飛び火しているというのだから、人はみな変身願望を持っているのかな?などと思う。
衣装を着て、自分の中のヒーローやヒロインに変身しても、所詮一時的な幻想でしかない。
人は他人にはなれないのだから。

けれども、変わりたい願望というのは、現状の自分に満足していない心理の表れだろう。たとえば、自分の性格の好きじゃないところか、仕事でうまくいってないとか・・自分のキャラや生活スタイルを変えたいと思う気持は、誰にでもあるだろうから。
変わりたいと思う自分を、衣装をつけるのではなく、しかも自分の内面までを上手に変えていくことができた人は幸いだ。
そのために有効な方法があるとしたら何だろう。
そのひとつとして環境を選ぶことがあげられると思う。
 
ある日、カウンター席に座って、働いているスタッフを見渡しながら、つくづく思ったことがある。
「みんな変わったよな? 変身!って感じだよね」
確かにキックバックカフェ(以下KBC)は、自分を変えたいと思う人たちが集り、変身を遂げていく場所になっている。そういう人たちに有益な機会を提供することが出来ているようだ。これほど嬉しことはない。

KBCのバリスタは、有名大学出身のマスコミ志望の男だった。
ところが希望の出版社に落ちて、挫折のどん底で半ば自暴自棄に陥り、願ってもいないとある飲食店で働いていたとき、僕の本(「なりたい自分になる教科書」/三笠書房)を読んだ。
そして、ある日こっそりKBCに様子を見に来たのがきっかけで、気づいてみたら、バリスタになっている。まさか人目につくカウンターの向こう側でラテを入れている自分の姿を、数年前には想像もできなかったと言う。

その日、あたりを見回すと彼だけでなく、働いているスタッフがみな大変身を遂げた人たちばかりだったのだ。キッチンのヘルプスタッフTという男性も、やはり本を読んでKBCにやってきた。
彼が読んだのは僕の本の中では一番出ている「この人と結婚していいの?」だった。
つき合っていた彼女と別れて傷心だった彼は、KBCに来て著者と会えば、心の葛藤やこれからのことに整理が付くかもしれないと漠然と思い描いて、ある日突然やってきたのだ。
某コンビニのCMにも出たことがある役者の彼。将来ハリウッドを目指しているらしい。もっとも英語はまるで話せないのだが・・。
都内のデパートで、一日中「点心」を作る仕事をしながら俳優業をしていた彼だが、彼女との思い出がつまったアパートを離れ、心機一転新しく希望をもって人生を仕切り直ししたいと思ったときに、自ら足を運んでKBCを訪ねてきてくれたのだ。
そして今、彼は昔の彼女のこともきれいさっぱり整理をつけて、スタッフが住む寮の住人の一員となっている。男だけの臭い部屋。プライベートもない。
けれども独特の柔らかいキャラと芝居人らしい粘り強さで、KBCのフードを支える一人になっている。

ホールに目をやると、イベントごとにサポートに入るBがいた。
彼女もまた変身を遂げた一人だ。彼女の変化には目を見張るものがある。
初めて僕が会ったとき、彼女は夫のことで相談にきたクライアントだった。やはり読者だ。
夫との関係は冷えきっていて、彼女は混乱していた。離婚を切り出されたが心の整理がついていなかった。僕は一人で相談に来る既婚者には、必ずパートナーと一緒に来ることを勧める。しかし夫は来ることはなく、結局彼女は離婚に至った。
ところがだ、ある日突然彼女は仙川に引っ越して来ていたのだ。
「え?仙川に?もう越してきたの?」
「はい。なるべくKBCに近いところに来たくて。すぐに相談にこれるし、一人暮らしになるから心強いし・・」
クライアントとして来ていたときの彼女は、暗くて途方にくれていた。
けれども今の彼女はいきいきしている。今まで接客業をやったことはなかった。
けれどもなれないはずのカフェでの接客にも心がこもっていることがわかる。
この場所は彼女がやり直すためのステージとなった。そんな感謝が周りに溢れ出しているのだ。


ふと違うところに目をやると、もう一人のホールスタッフAがいた。
彼女が初めて来たとき、秘書がこんなことを言う。
「あそこの席の女性、静岡から来たそうです。いてもたってもいられなくなって来たということです」
カウンセリングは完全予約制だと言うのに、予約もなくいきなりやってきた彼女。
たまたま時間が空いていたので臨時でカウンセリングをした。
彼女はすでに離婚していた。しかし職場の男性との今後の付き合いについて悩みを抱えていた。B同様彼女は混乱の中にいた。明らかに自分の進むべき方向が正しくないよう思えた。それから彼女はちょくちょく遠い道のりをKBCまで足を運ぶようになった。結局彼との関係に終止符が打たれたとき、彼女は転勤の希望を出して東京にやって来た。

そして今やBと同じようにKBCに訪れる人を笑顔で迎える一人となっている。
KBCには恋愛や結婚の悩みを抱える女性たちがひっきりなしにやってくる。
そんな悩める女性たちに、彼女たちの助言は具体的で役に立つ。ここにいることで、彼女たちは自分たちの失敗が人の役に立つ源になっていることを実感できる。そんな経験が本人たちにも力を与えるのだ。
 
生活を変えたいとき、また自己の内面を変えたいとき、まず最初に変えるべきなのは環境だ。何も仕事をやめる必要はない。けれども、どういう人たちと時間を多く過ごすかは、その人の内面や生活に決定的な影響を与える要素だ。
だから知恵を使って身を置く場所とつき合う人を選ぶべきだ。
多くの人は、変えられない自分を仮想現実の中におくことで刹那的な満足感を得ようと試みる。しかし僕がここで出合う人たちを見るとき、人はコスプレをやらなくても変身できるのだということを確認させてくれる。
 
OLをやりながら週末になると厨房に立つ別の女性がいる。
「唯一の休みの日なのに大丈夫?」
ある日僕がこう尋ねると、彼女はこう返答した。
「ぜんぜん大丈夫です。わたし、ここで働くと元気になるんです」
カウンセリングに来たとき、うつむいていた彼女から、こんな反応が来るとはまるで予想していなかった。
しかし確かに彼女は見違えるように元気になっていった。まさに変身だ。

僕は人を変えられない。
けれども、変われることを信じる人たちが積極的な思いで集るとき、そこに力が生まれるのだろう。

僕はKBCがいつまでも変身カフェであり続けることを願う。

(2006年10月号掲載)

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■バックナンバー

2008年----------

8月号 町づくりカフェ
7月号 好意がカギだ
6月号 奇跡カフェ
5月号 私の学校KBC
4月号 医療関係者の癒しカフェ
3月号 安全カフェ
2月号 キッズバックカフェ
1月号 バラエティカフェ



2007年----------

12月号 奮い立つカフェ
11月号 大切すぎて入れないカフェ
10月号 おかえりカフェ
9月号 天国の前庭
8月号 ヘルシーカフェ
7月号 再生カフェ
6月号

思い出かふぇ

5月号 かけこみカフェ
4月号 マイホームカフェ
3月号 ノンアルコールカフェ
2月号 元気がでるカフェ
1月号 ゴスペルカフェ

2006年----------

12月号 人儲けカフェ
11月号 キックバックはめぐみカフェ
10月号 キックバックは変身カフェ
9月号 キックバックは出会いカフェ
8月号 クリエーターズカフェ
7月号 ママも子どももキックバック
6月号 キックバックは
閉店後も大歓迎
(連載スタート)



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