専門誌 月間カフェ&レストランにて オーナーマレが2年間連載(2008年8月終了)

カウンター椅子
心の交差店

2006年7月号の表紙

旭屋出版web site


ママも子どももキックバック (2006年7月号掲載)


ついこの間のことだ。
ランチタイムの終わり頃、僕は、カウンター席に座ってラテを飲んでいた。
するとシングルマザーのホールスタッフ(以下スタッフU)が、見知らぬ赤ちゃんをだっこしながら近づいてきた。

「あれ、お母さんは?」

「今、お手洗いに入っています」

「あ、そうなんだ・・」

「はい」

「かわいいね 何ヶ月?」

「半年です」

もう一人のスタッフもカウンター越しにその赤ちゃんをあやし始めた。
僕はこの何気ない光景にいたく感動した。トイレに入る際に、生後6ヶ月の子供を、他人であるスタッフに預けることができるというのは信頼の証だ。

「ここのスタッフには子供を預けても大丈夫」という安心がなかったら、母親は決してそんなことはしないだろうから。
つい最近までは、真っ赤な他人だったのに、カフェを通してそういう間がらになっている。
スタッフは、お客様に「安心」を提供することができているんだな・・・そう思ったから、とても嬉しくなったのだ。

オープンして一年半。
気づいてみれば、キックバックカフェ(以下KBC)のお昼の中心は、ママと子供たちになっている。
結果的に僕たちが提供しうるサービスが、小さな子供を持っている母親たちのニーズに答えるものであったということなのだろう。

あるヤングママが、こんなことを言ってくれた。
「子供が生まれる前は、自分の好きな店を選べたんですけど、子供と一緒となると、外食は、ファミレスになってしまうことが多いです。だから、『カフェ』でランチできるということが、私たちママにとっては、とてもありがたいんです。まず、一番嬉しいのが、子供連れをウェルカムしてくれること。それにノンスモーキング。あと、トイレが広くて、オムツ交換の場所だけでなく、授乳できるマザーズルームがあること。それに、子供用の椅子があって。子供メニューもある。入り口が広くて、お会計がテーブルでできることなどなど、たくさんありますよ」

実際の声を聞いてみると、なるほどと思う 。確かに、KBCは子どもずれのママたちを大歓迎する。(というか、来てくれる人は誰でも大歓迎だ)

ベビーカーを見ると、スタッフがすかさず飛んでいって、入り口の段差で立ち往生しないように、お客様をヘルプする。段差がある以上、手を貸すのは当たり前なことで何も特別なことじゃない。けれどもこの姿勢がママたちには喜ばれているようだ。

そもそも、サービスというのは、サーブ(仕える)の名詞形だから、サービス業とは、仕えることを仕事にするという意味だ。 そこにある必要に目をとめて、それを満たすために努力し仕えることこそ、我々の日常であるべきだ。

そう思うところから始まったサービスが結果として受入れられている。それがKBCを愛してくれる常連さんたちの輪をつなぐ。これほど嬉しいことはない。

KBCスタッフには、前述のシングルマザー以外に、幼児教育の専門家が二人いる。 
また僕がフリースクールの代表をしていることから、ちょくちょくヘルプに入るスタッフの一人はフリースクールの校長だ。そしてKBCは僕たち夫婦が人々のカウンセリングをする場所でもある。その関係で、ここで働く者たちはみな人に関心を持つことが要求される。

だから、スタッフはお客様にどんどん話しかけるし、会話を楽しむ。
子供が大好きなスタッフは、お母さんに連れられ来店する子供たちとはよく遊ぶ。
近所の小学生が一人で暇つぶしに来ることもる。

先日もカウンター席で僕の隣に一人の女の子がいた。
しばらく絵を描いていたと思ったら「じゃあね」と言って出て行ったので、「誰?」と聞いてみると、「近所の子で、今、家で一人だから来たんですって」と言う。

調布市の定めた「子どもの家」という場所になっていることもあって、子どもたちが一人で入ってきてもいいことになっている。



ある日のことだ。母親と女の子一人の二名が来店した。
マネージャーは子どもの顔を覚えていて、スタッフUに言った。
「あの子、二回目だから話しかけてみてね。君の子どもと同じ年頃だし・・」
女の子は、少し前にKBCで行なわれた地元小学校6年卒業パーティーに来ていた一人だということがわかった。母親は出席していなかったらしい。

「まさか、顔を覚えてらっしゃるんですか?!30人子供がいたのに」
母親はそのことに驚いていた。

彼女が2人と話していると、この親子は、吹奏楽部の楽器のことで迷っているという。
それを聞いてすかさず彼女は、もう一人のスタッフを呼んだ。彼が管楽器をかじっているのを知っていたから、彼なら何か助言できるかもしれない。
「サックスをやるかフルートをやるか迷ってる人がいるから、話してあげてくれない?吹奏楽部に入って、楽器を決める時期になっているから迷ってるらしいの。お母さんはサックスをやらせたいんだけど、娘はフルートがいいかなぁと思ってるらしいわ」

「え、そうなの?オッケー」スタッフUは、その後の話を彼に託した。

「どうしてフルートがいいの?」と彼。

「フルートの音を聴いて、きれいだなあと思ったから」

「へーそうなんだ。音を聴いて、きれいだなって思ったなら、その最初の思いは大切にしたほうがいいよ。それに、目指す音があった方が練習しやすいよね」

彼は自分の経験から具体的な助言ができたようだ。

「でも、決めるのは自分だよ。いい選択ができるようにね」

「うん」

「楽器が決まったらまた報告に来てね」

「わかりました、絶対来ます!」

彼女は嬉しそうにそう言った。

実は、この二人には、親子でお気に入りのカフェがあった。けれども何度目かにそのカフェに行ったとき、彼女の3歳になる弟が店内で泣いてしまったらしい。
すると店員から「もう来ないで下さい」と怒られたというのだ。あり得ない!そう思う。この件以来、母親は『カフェ』というものに不満を抱くようになった。ところがこの2人はKBCにやってきた。うちもカフェなのに。

実は母親を誘ってきてくれたのは、小学校を卒業したばかりの彼女だった。
前述した卒業パーティーの際、スタッフと話したことで、KBCを好きになってくれていた。 
そんな彼女が、カフェに不満な母親を見て「KBC行こう!」と誘って来てくれたのだ。子どもにも応援してもらえるカフェなんだな。これほど嬉しいことはない。

この日、KBCを去るとき、母親は小さな声で「常連になっちゃうかも」と言ってくれた。

そして、それからほどなく開催された毎月恒例の音楽イベントにも、夜だというのの二人そろって来てくれた。
今や二人は、KBCのなじみの顔になっている。


(2006年7月号掲載)

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■バックナンバー

2008年----------

8月号 町づくりカフェ
7月号 好意がカギだ
6月号 奇跡カフェ
5月号 私の学校KBC
4月号 医療関係者の癒しカフェ
3月号 安全カフェ
2月号 キッズバックカフェ
1月号 バラエティカフェ



2007年----------

12月号 奮い立つカフェ
11月号 大切すぎて入れないカフェ
10月号 おかえりカフェ
9月号 天国の前庭
8月号 ヘルシーカフェ
7月号 再生カフェ
6月号

思い出かふぇ

5月号 かけこみカフェ
4月号 マイホームカフェ
3月号 ノンアルコールカフェ
2月号 元気がでるカフェ
1月号 ゴスペルカフェ

2006年----------

12月号 人儲けカフェ
11月号 キックバックはめぐみカフェ
10月号 キックバックは変身カフェ
9月号 キックバックは出会いカフェ
8月号 クリエーターズカフェ
7月号 ママも子どももキックバック
6月号 キックバックは
閉店後も大歓迎
(連載スタート)



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